日本の言語景観

−日本語の変な英語−

作成:ダニエル・ロング

Don't run to get on a train.
英語の定冠詞・不定冠詞の使い方が日本人にとって難しい。確かに特定な列車を指しているわけではないので、不定冠詞が正しいように思われるだろうが、定冠詞(Don't run to get on the train")が自然。設置場所は駅のホーム(東京のモノレール)なので、どの電車かは明らかであり、不定冠詞を使って一般的な話にするのはおかしい。




現在地。It is the ground now.
バス停の案内図をせっかく英語にしようとしているが、その英語はまったく無意味のものである。これは「ちょっと表現が変だ」とか「文法的におかしいけど、言いたいことが分かる」という程度の間違いではなく、日本語が分からない人にはまったく意味不明な表現。逆に日本語に戻すと「今はそれが土だ」になる。





ピンクちらし
これは「逆成」(back formation)という語形成過程を説明する例として良い。「ピンク映画」は日本語で成人映画、ポルノという意味だ。意味からすれば、元々「ピンク」と「映画」を組み合わせた複合語ではなく、「ピンク映画」が一つの概念と考えた方が良い。しかし、現在は、これが逆に「ピンク=成人向け」+映画と再解釈されて、「ピンク」が独立した単語となっている。だから、「ピンクちらし」という単語が作れたのであろう。現在、「てりやきバーガー」などに「バーガー」が複合語で使われるが、これも「逆成」に当たる。ハンバーガーは元々"ham"+"burger"ではなく、"hamburg"(ドイツの町)+"er"(そこから来た物・人)だったが、語の境界線が勘違いされ、形態素がham+burgerと再解釈された。





ベッドメイク
英語では確かにmake the bedと言うが、bed-makeという複合語は無理。和製英語の興味深さは個別単語が形成された点だけではなく、このように日本語の文法(語順)に沿って英語が組み合わせられているところにある。英語はSVOの言語で動詞のあとに目的語がくるが、日本語は文にしても(布団を干す、皿を洗う)、複合語名詞にしても(布団干し、皿洗い)語順はOV。和製英語にも「ベッドメイク」が目立つ。ちなにみ、英語でmake her hairと言わないが、日本語ではヘアメイクという仕事がある。





sudoku
日本で「数独」(数字のクロスワードパズルのようなもの)は非常にマイナーであるが、アメリカでは広く知られている。その証拠として、米国の最古の言語関係の学会であるAmerican Dialect Societyが数年前にsudokuをbest new word of the yearに選んだ。このポスターで「世界中で大評判!日本が生んだパズル」と書いてあるが、世界中で人気であることも日本発であることも日本人には知られていない。(考えてください。寿司については「世界中で大評判」と言えても、「日本が生んだ」とは当たり前過ぎて書けないでしょう。)これは「ことばの逆輸入」や「言語的外圧」と言える現象。



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