初出:1997年2月『日本研究』(ソウル・中央大学校日本研究所発行)12:57-95

緊急時報道における非母語話者の言語問題

―応用社会言語学の試み―

ダニエル・ロング (東京都立大学)

dlong@bcomp.metro-u.ac.jp
目次

1 緊急時報道における外国語使用の問題点

2 非母語話者の希望言語

3 緊急時の報道における日本語使用の問題点

4 語彙の使用頻度とその難易度

5 文の長さと分りにくさ

6 文の構造の複雑さ

7 「やさしい日本語」に向けて

1 緊急時報道における外国語使用の問題点

 この論文は緊急時おける非母語話者の言語問題を社会言語学的な観点から考察し、追究する。注1まず、最初に、非母語話者の立場から見て、緊急時に提供される情報の実態を考える。緊急時に、外国人が最も頼りにしている情報源はテレビやラジオといったマスコミである。注2また、日本の放送機関はこうした期待に答える形で、日本語以外の言語で情報を流すこともあるので、本稿の前半ではまず、こうした他言語放送は緊急事態に直面した外国人のニーズに答えているかどうかを問う。次に、この質問の否定的な回答を受けて、こうした状況に置かれている非母語話者に、日本語による情報を提供することが有益かどうか検討する。その結果、震災後にかなり多くの外国人は日本語で情報を求めたことが明らかになった。そこで、実際に報道された緊急事態のニュースを資料に使い、非母語話者にとってどの点が難しいかを本稿の後半で分析する。従って、ここでは、統計学的データの量的分析と、ケーススタディーのデータの質的分析との両方を利用するのである。

 このように、実際のデータを社会言語学的な方法によって収集し、分析し、そしてその結果を社会問題の解消に役立てようとする研究は、「応用社会言語学」と呼ぶにふさわしいであろう。こうした応用社会言語学には、学者の内省や直観だけでは不十分なので、エンペリカルなデータが必要不可欠である。

 なお、本稿で言う「外国人」とは、日本語を母語としない人、つまり「非母語話者」の同義語というふうに定義しておきたい。従って、日本語を母語とする様々な国籍を持つ在日外国人は本稿では対象としない。

 さて、緊急事態が発生した際、当局が地域住民に対し、適格な情報を可能な限り素速く、正確に、かつ詳細に伝えなければならない。注31995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災でこの事実を筆者が痛感した。情報の伝達がどの程度効率よくできるかが、死と生を分ける決定的な要因なのである。日本の場合、「地域住民」には、日本語を母語とする人以外にも、その地域で暮らす外国からやってきた非母語話者の人達がいる。

 非母語話者の住民を対象に日本の中央政府や自治体をはじめとして、企業やボランティア団体などが、日常生活に関する情報を、英語、中国語、ポルトガル語など言語で提供することに努めている(平野桂介 1995a)。これはゴミの出し方から税金の払い方まで幅広い分野に渡っている(平野桂介 1995b)。防災対策に関する広報紙を作成している自治体もある(東京都港区防災課 1993,名古屋市消防局 1993,消防庁防災課 1993)。

 マスコミも日本語があまり話せない外国人のために、ニュースなどを訳し放送している。緊急時、NHKテレビなどの報道機関は日本語以外の、英語をはじめとする複数の外国語での情報提供に努めている(NHK 1996, 杉原達 1996)。しかし、マスコミの他言語による報道については様々な問題点がある。それは、次の通りである。

(1)多言語使用の実用性 (practicality of multilingual broadcasts)

(2)準備された訳の実用性 (practicality of prepared translations)

(3)情報の有効性 (usefulness of information)

(4)情報の適用の可能性 (applicability of information)

 

1.1 多言語使用の実用性 (practicality of multilingual broadcasts)

 放送機関が日本語以外の言語で報道することを決めた場合、様々な選択に直面する。まず、どの言語を使用するかを決めなければならない。現状では、外国語のニュース放送は英語放送を意味するが、緊急時報道を英語だけで行なうのか、それとも他の言語と合わせて、多言語使用をするかは問題である。英語以外の言語を使うという方針であれば、言語をいくつ使うのかを検討する必要がある。この選択は非常に矛盾の多い難しい問題である。情報をできるだけ多くの異なる言語を話す外国人に伝えるためには、言語の数を最大限に増やさなければならない。だが、一方で、それぞれの言語で報道される情報量を最大限に増やすためには、当然、言語の数を最小限に抑える必要がある。注4

 さらに、多数の言語で情報を放送する場合、その順番が深刻な問題となってくる。例えば、視聴者が生きるか死ぬかが、一秒でも早く必要な情報を得られるかどうかにかかっている緊急時に、英語や中国語、韓国語、ポルトガル語などの放送が全部終わるまで、ベトナム語の視聴者が待たなければならないという問題が現実に起こり兼ねないのである。

 ところで、日本に住んでいる外国人はどの英語が分かるのであろうか。もし、かれらは英語がよく理解できるようであれば、多言語放送の必要性はなくなる。緊急時の放送は日本語と英語の2つの言語だけを使えば良い。しかし、逆に、日本で暮らしている外国人の多くは英語があまりよく話せないということが分かれば、「外国人のため」にあると言われ続けた日本の英語放送の必要性を考え直さなければならなくなる。

 在日の外国人全員にTOEFLのような英語能力試験を受けさせない限り、この答えは得られないので、こうしたデータを集めることはほとんど不可能であろう。そこで、この問題を違う観点から考えることにした。すなわち、在日外国人の英語能力を知ることができなければ、その人達の母国で英語が一般に使われているかどうかを考えることにした。つまり、その個人個人の英語能力を知ることが不可能であっても、その国全体の言語状況から、個人の英語能力をおおざっぱに推測することができる。

 しかし、そこで新たな問題に直面する。それは、つまり、日本在住の非母語話者の数を把握することが極めて難しい。その要因として、大韓民国や朝鮮民衆主義人民共和国をはじめ、中国やインドなど様々な外国の国籍を有する日本生まれ日本育ちの、いわゆる外国籍の日本語母語話者がいることがあがられる。一方、日本の国籍を有しながらも、日本語を第2言語として話している(あるいは学習している)帰国子女、アジア大陸の残留孤児、そして帰化した外国生まれの人がいることいることも無視できない。(以下の国籍別の日本語学習者のデータでは、第7番目に多い国籍は「日本」になっている。)

 このような問題を避けるため、日本国内で日本語を学習している人の数を考えることにした。もちろん、日本語を学習している人は、日本に住むの非母語話者全体の氷山の一角に過ぎないだろうが、全体の統計がないため、学習者の人数を見ることにする。1995年11月1日現在の資料によると、日本の教育機関で日本語を学習している人は84,541人でる。上位20ヵ国の出身者を足すと72,160人になる。これは全体の85.4%を占めている。また、上位20ヵ国の出身者(72,160人)を100%とした場合、英語が第1言語として広く使われているのはアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダだけであり、その人数を足しても上位20ヵ国の20%にも満たない(19.8)。仮に、英語が第2言語として広く使われているフィリピンとインドのいわゆる「準英語圏」の人数をこれに追加しても、英語話者の割合はまだ23.6%に止まっている(図1)。この統計は、日本に住む外国人の内、英語話者がどれだけ少ないかを示唆しているものと思われる(文化庁 1996)。

 上で述べたことを次のようにまとめることができる。緊急時報道における多言語使用がどの程現実的であるかを考える際、次の3つの問題点を考慮しなければならない。

@使用言語の数(異なる言語をいくつ使うか)

A使用言語の具体的な選択(どの言語を使うか)

B使用言語の放送の順番

 

図1 日本国内の日本語学習者(上位20ヵ国) ―英語圏と非英語圏の比較―

 

1.2 準備された訳の実用性 (practicality of prepared translations)

 ここで問題となっているのは、あらゆる場合に備えて英語(あるいはその他の外国語)による注意報、警報などを用意することが果たして可能かどうかということである。

 マスコミは日本語があまり話せない外国人のためにニュースなどを訳し放送している。予測される緊急時に備えて、放送の内容を予測して、必要とされる単語や表現、文章を予め用意しているのである。しかし、問題は、緊急事態そのもの状況がどこまで予測可能であるかということにつきる。つまり、あらゆる災害時に必要となってくる単語や表現を用意することが果たして可能なのかどうかという根本的な問題である。

 去年の大震災について、「予想以上のことだった」という発言がたびたび聞かれた。また、1995年3月、想像を絶するばかりの地下鉄サリン事件が発生した。こうしたテロ事件は、天災ではないが、確かに緊急事態である。さらに、本年は、北海道の古平町で巨大な岩が落ちてきて発生したトンネル事故、隕石が関東地方を直撃するなど、また、「予想外」の出来事が連続して起こっている。

 それゆえ、様々な状況に備えて、色々な注意や警告を外国語に訳して用意しておくと言っても、それには限界があるわけである。

 

1.3 情報の有効性 (usefulness of information)

 ここで問題とするのは、阪神大地震の時に、英語で報道された情報は果たして役に立つ情報であったかどうかということである。

 報道機関が緊急放送を外国語に訳す場合、刻々と変わり行く状況をどの程度詳細に伝えられるかが勝負である。予め用意された訳文の有効性がうまく発揮できないことが多い。阪神大地震の時に、日本語以外の言語で情報が放送されたが、こうした外国語放送は多くの問題を伴っている。例えば、ポルトガル語で放送されたニュースは簡略化されすぎてほんとど訳に立たなかったという報告もある(ナカミズ・エレン,陳於華 1996)。

 しかし、ポルトガル語に比べて、英語による放送が多かったことも予想されるので、英語による報道に比べてはアメリカ人の被災者にとってどの程度有効な情報だったかを調べることにした。結論を先に言うと、同じ決まり文句が繰り返し放送されたために頼りにならなかったという指摘があった。以下で、2人の英語圏人を対象にした面接調査のデータを考察する。なお、面接は筆者が英語で行ったものである。以下の文字化資料は、面接の時の談話を筆者が英訳したものである。

 インフォーマントのJさんは、英語を母語とするアメリカ人の54歳の女性である。被害が特にひどかった神戸市灘区にある五階建ての鉄骨マンションの二階に一人で住んでいた。日本語の学習期間は(当時)、滞日期間と同じ1年4ヵ月であった。大学で英語学科の交換教授として勤めていた。注5

 まず、「地震直後の情報をどのようにえたのか?」という質問に対し、「一番主な情報源は近所の人、つまり口コミであった。二番めの情報は近所を歩き回って見たという、目から入った情報である。」この場合、近所の人と話すことは、日本語で話すことを意味する。次の体験談から一番の情報源である近所の人との対話の中での日本語の重要性について考えてみたい。

 自分の言語行動について、Jさんは、地震直後には心理的な打撃を受けたため、わずかに話せる日本語でも口から出てこなかったと語っている。

 17日当日の朝、地震が起こったので、私は飛び起きて、ベランダに出た。同じマンションに住んでいる隣の部屋の人たちもベランダに出ていたので、そこで隣の人たちの顔を見た。しかし、彼らはその時点では英語で話そうとしなかった。普段は英語が話せる人たちですが、この状況では、英語がでてこないという様子だった。ところが、私も英語しか口から出てこないという感じだった。普段は少しくらい日本語をしゃべるが、この状況の中では、心理的なブロックのために、日本語が出てこなかったわけだ。  ところで、自分のわずかながらの日本語能力はすぐに戻って、見知らぬ日本人ともコミュニケーションがなんとか取れるようになった。  [地震発生から]1時間ぐらい経ってから、私は、外に出て歩いてみた。そこで、知らない男性に出会って、ちょっと言葉を交わした。近所で燃えている建物があったが、いつの間にかその見知らぬ男性と一緒に火事を見て回っていた。私は、普段少し日本語が話せるが、この時点でその日本語能力が戻ってきた。その男性から彼の家は破壊したという話を聞いた。この人はまったく英語を話せなかったようだ。

 そして私は、道を通り過ぎるまた違う人を呼び止めて情報を求めた。日本語で質問しようとしたが、聞きたいことは日本語で表現できなかったで、英語で質問した。これは心理的なブロックではなくて、単に言いたい単語があり、言いたかったことが言えなかっただけだった。どういう内容の質問をしていたかははっきりと覚えていない。たぶん燃えている建物の辺りに住む知人がいて、その人の安否について聞いただろうと思う。英語で質問して、その人は知らないと答えた。そこで、彼がまた違う通行人を呼び止めて、私の代わりにまた同じ質問をしてくれたが、二人目の人は英語で、「知らない」と答えた。

 さて、本論文のテーマであるマスコミと人との関わりはどうなっていただろうか。Jさんは、「母語による情報を得る事が出来たか?」という質問に対し、次のように答えている。  英語による情報を得ることができた。それは、民放のKーFMラジオ局からだった。と言ってもラジオを初めて聞いたのは当日の1月17日の夜になってからのことだ。昼間は全くラジオなどを聞こうとしなかった。

 KーFMは、非常に努力したと思っているし、高く評価している。特に英語圏の人に対しては、非常に親切だった。具体的に言うと、英語放送の量が多かった。一人のDJは24時間以上ラジオ局に留って放送を続けていたこともあった。

 しかし、このラジオ局が果たした主な役割は「情報の伝達」というより、不安をかかえる日本語を母語としない被災者たちに安心感を与えることにあったようである。「情報の内容はどんなものだったのですか?」という質問に対し、Jさんは次のように答えている。  そのラジオ局は繰り返し繰り返し英語のテープをかけていたという。「今は大変な時期だけど、我々はきっとうまく生き抜いていけるだろう」という内容のものだった。このテープは、最初のうちは慰めになったが、何週間にも渡ってこの同じテープをかけていたので、しまいに飽きてきた。 努力を認めながらも、流された情報はさほど役に立たなかったと語っている。

 つまり、ラジオ放送の重要性は、大切な情報源というよりは、孤独感を解消する相手になったことにある。「母語による情報はどれくらい役に立ちましたか?」と尋ねると、次のことを語ってくれた。

 ラジオが流した情報はそんなに役に立つようなもではなかったが、これによって、外との接点が持てたという点において非常に良かった。これがなかったら孤立になっていたと思う。僅かでも英語によるニュース報道を聞くのは慰めになった。  一方、もう一人の非母語話者被災者も、英語によるマスコミ報道について、あまり役に立たなかったと言っている。

 話者は、大阪府で被害が取り分け深刻だった豊中市に住んでいた。本人の家の水道が止り、ガス漏れが発生した、また隣接の一軒家2棟が全壊であった。この36歳の男性は、来日して5年半の大学教師(英語学)をしている36歳の男性である。日本語学習歴は、日本で一年以上になっている。自分の日本語能力を中の上と自己評価している。注6

 彼は、普段のニュースを見る場合は副音声の英語を聞くと言っているが、地震直後に、テレビを見た時は日本語の方を選んだという。

 朝6時半になっていない、かなり朝早い時間に、私は初めてテレビをつけた。NHKのBS1のチャンネルにあわせた。

 どうしてBS1を見たかというと、何が起こったかということについて、特定の情報ではなく、一般的な情報が欲しかった。家の中がぐちゃぐちゃな状態だったが片付ける気にはならず、じっと座ってテレビを見ていた。その放送は、日本語の放送だった。それはどうしてだったかというと、私は以前の経験から、英語の方の副音声では同じ内容が繰り返されるということがわかっていたので、あまり役にたつ情報は流れないだろうと思い、日本語で聞くことにした。

 外国語による緊急時放送の問題点を、情報が簡略化されると、同じ情報の繰り返しの二点をあげることができる。

 

1.4 情報の適用の可能性 (applicability of information)

 さて、日本語以外の言語による緊急時の放送の4つ目の問題点としては、情報の適用の可能性が指摘される。つまり、外国人の視聴者がテレビやラジオなのマスコミ機関で聞いた情報を、実際の日本社会で利用することができるかという問題である。

 外国人視聴者にとって、確かに日本語のニュースよりも、母語によるニュースの方が理解しやすいだろう。だが、外国人が住宅の外に出て、自分のすでに得た情報を元に実際に行動に出るとする、どうしても日本語が必要になってくる。例えば、英語のみで行なわれるラジオ放送やニヵ国語放送で、英語だけで「go to the emergency shelters」という避難命令を出した場合、この放送を聞いた英語圏人の視聴者はその意味については分かるが、家を飛び出て避難所を探す場合、その場所がどこにあるかを一般の日本人に向かって質問することはできないかもしれない。従って、英語放送の場合でも「避難所」という日本語も合わせて使う必要があるわけである。

 ところで、今回行なった面接調査でも、情報の適用の重要性を示唆する体験談を得た。それは、Mさんがガス会社と水道局にそれぞれの異常を電話で通報するという話しである。こうした情報は当然日本語で伝えなければならないが、この場合に必要となる語彙は、日常生活を日本語で問題なく送っている外国人でも知らない可能性が高い。こうした語彙は、例えば、テレビやラジオが緊急放送の中で使っていれば、外国人にとってそれを知るきっかけにもなると思われる。

 隣人の家から、大阪ガスにガス洩れを電話で報告した。電話で三つのことを言った。それは、ガス洩れがあったこと、外の元栓は閉めてあること、そしていつそれを治しに来てもらえるかということだった。この話はスムーズにいった。なぜなら、以前にも大阪ガスに電話したことがあった。その時は危険な状態ではなかったので、辞書で「ガス洩れ」や「元栓」などの必要な単語を調べ、そのメモをもとに電話した。以前にそういう経験が偶然にあったから、今回、苦労せずに電話をかけることができた。

 数分後に、水道の水圧が非常に下がっていることや、水が漏れている音がすることに気付いたので、水道局に電話した。水圧が低いことを伝えた。水道局の相手が、「ある程度水が出ているなら、工事は後回しにせざるを得ないので、今のところで、工事の日程が決められない」と答えた。このやりとりはうまくいき、特にコミュニケーション問題はなかった。

 なお、上の体験談では、本人が必要な日本語の単語や表現を自ら調べておいたのであって、それをテレビやラジオから聞いて憶えたわけではない。しかし、このケーススタディーから、非母語話者にとって必要なのは情報を得て、理解すること以外に、その情報を持って実際に日本の社会で行動に移すことができるかどうかが重大な問題であることが分かる。

 

2 非母語話者の希望言語

 以上、日本語以外の言語で行なわれる場合の報道上の問題を見てきたが、非母語話者自身が情報を求める場合、はたしてどのような言語による情報を望んでいるのだろうか。以下で、緊急時に情報を求めた諸外国人が、どの程度日本語を選択し使用しているかを示すデータをみてみよう。

 震災直後に、外国人からの相談に応じるために、「外国人地震情報センター」という外国人専用の相談室が設置された。ここに相談を求めた外国人が何語で話したかについての統計がある(真田信治 1996)。注7同センターには、日本語か英語で対応できる相談係が常時待機していた。また、これ以外に、時間によっては、中国語(普通話)、タガログ語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、ペトナム語、フランス語、タイ語、インドネシア語の9言語の相談係がいた。

 

表1 外国人が何語で相談を求めるか

 
国籍 相談を母語で実施 日本語% 母語% L2英語%
優勢言語
回答数(本人)
中国 

フィリピン

ペルー

ブラジル

アメリカ

ボリビア

韓国

コロンビア

イギリス

ベトナム

タイ

イラン

チリ

インド

ドイツ

カナダ

スリランカ

バングラデシュ

インドネシア

アルジェリア

 

 

 

 

57

13.5

3.8

26.3

6.9

0

60

0

0

87.5

37.5

71.4

16.7

60

25

0

33.3

33.3

100

0

42.1

53.8

92.3

71.1

93.1

100

40

100

100

12.5

50

0

66.7

0

0

100

0

0

0

0

0.8

32.7

3.8

2.6

0

0

0

0

0

0

12.5

28.6

16.7

40

75

0

66.7

66.7

0

100
●L2日本語 

L2英語

 

◎L2日本語

 

 

●L2日本語

 

 

●L2日本語

◎L2日本語

●L2日本語

 

●L2日本語

L2英語

 

L2英語

L2英語

●L2日本語

L2英語

121

52

52

38

29

24

20

16

11

8

8

7

6

5

4

4

3

3

2

2
全体  

30.4

61

8.7
◎L2日本語

415

 

図2 相談を求めた外国人 ―使用言語の分布―

 全体の415人のうち、母語で相談を求めた人が最も多く、61%を占めていた(253人)。母語で相談した人が最も多かった理由は、当たり前のことであるが、希望の言語を話せる相談係は必ずしもいない場合が多く、相談を行なっていた9言語のうち、スタッフが常時勤務していたのは日本語と英語だけであった。その他の7つの言語に関しては、それを話すスタッフがたまたま留守だった場合、相談希望者がまた改めて連絡するか、あるいは自分にとっては第2言語である、英語や日本語で話すしかなかった。そこで、注目したいのは、英語を母語とする人の場合ではなく、ペルシア語(イランの言語)をのように、相談係の中にその話者がまったくいない場合、あるいはスペイン語のように、その言語で対応できる人が常時いない場合である。彼らは、自分の母語で応対できる人がいない場合、自分の母語以外の言語で話さなければならないが、そこで問題なのは、彼らは、同じ第2言語として英語と日本語のどちらを選んだかということである。

 表1を見ると、30.4%に当たる126人は第2言語としての日本語を選んでいる。これは、第2言語としての英語を選択している8.7%(36人)の人たちの3倍以上にも達している。国単位で見ると、「L2英語」よりも「日本語」を使った人が多かった国は全20ヵ国のうち、なんと8ヵ国に上っている。こうした国の中には、中国、ブラジル、韓国、ベトナム、タイ、イラン、インドネシアのように、英語が国内でさかんに使われていない国がそのほとんどであるが、中にはインドのように、国内でも英語がかなり普及している国があり、非常に興味深い現象である(図2)。

 このことは、表の「優勢言語」の欄で示している。それぞれの国の話者で、「第2言語としての英語」よりも「第2言語としての日本語」を使った人が多かった場合を◎で記した。そして母語と英語の両方よりも日本語を使用した人が多かった場合を●で記した。逆に、日本語よりも英語の使用者が多かった国の場合は、「L2英語」と記している。「優勢言語」の欄が空白になっているのは、ペルーのように、「L2英語%」と「日本語%」は同点だったか、イギリスのように、国の公用語が英語となっているため、「母語」と「英語」は同じことを意味する国である。この表を見る限り、日本在住の英語を母語としない外国人には、日本での生活の中で、第2言語として英語を使う人よりも、第2言語としての日本語を使うが多いように思われる。

 

3 緊急時の報道における日本語使用の問題点

 さて、日本語を日常生活である程度使いこなせる非母語話者でも、阪神大震災直後のマスコミの報道がよく理解できなかったという状況が浮かび上がってきた。ここでは、その報道がなぜ分りにくかったかを分析する。そこで、文を分かりにくくする要素を3つに分けて、考察を進める。それは、次の通りである。

(1)文に含まれている語彙の使用頻度で計った「語彙の難易度」

(2)文節数で計った「文の長さ」

(3)文の動詞の数で計った「文の複雑さ」

 まず、日本語を母語としない人が緊急時の報道を聞いてどのような語彙や表現に遭遇するかを知らなければならない。阪神大震災の際、非母語話者の多くは緊急情報をテレビを通じて入手したことが指摘されている(松田陽子 1996;ナカミズ・エレン,陳於華 1996)。それゆえ、本稿では分析資料としてテレビのニュースを対象とする。パソコン通信を利用して、NHKテレビ放送のニュース原稿を入手した。注870本のニュース項目には、内容的な繰り返しがあったが、これは「一日NHKテレビを聞いている外人が聞くニュース」であると判断し、全部を対象にすることにした。分析の対象とする70本の原稿は、1995年1月17日の地震の当日の7:00放送の「おはよう日本」、12:00の「全国ニュース」、19:00の「ニュース7」、23:00の「ニュース11」、25:00の「その他のニュース」、25:00の「特設ニュース」、「ローカルニュース」の7つのニュース放送で流されたものである。以下、これらを全て含めて「NHK地震原稿」と呼ぶ。

 この他に、1996年2月17日に、南太平洋のビアク島で起きた地震による津波のテレビ速報を録画し、文字化した。この資料は、夜20時台に放送されたNHKの速報と、その直後、民放(毎日放送)で放送された速報の2つである。後の分析では、この津波報道の文字化資料と地震関係の原稿を区別して分析するが、そこでこれらを「NHK津波」と「民放津波」と呼ぶ。これらと、「NHK地震原稿」の3つを合わせて、今回分析の対象とする資料全体を「緊急時放送資料」と呼ぶ。

 緊急時放送資料の中で、様々な情報を伝えるためのいわゆる「情報伝達機能」を果たす発話がほとんどであったが、中には、視聴者になんらかの行動を起こさせようとする「働きかけ機能」を果たす発話もあった。このような「注意」や「警報」に当たる文は、単なる「情報」に比べて緊急性が高い。次の例は12:00放送の「全国ニュース」で伝えられたものである。

 気象庁では、今後もしばらくは余震が続くうえ、やや規模の大きな余震が起きるおそれもあるとして、地震の揺れで壁に亀裂が入ったりしている建物には近づかないようにするなど、余震に対して十分注意してほしいと呼びかけています。  その後の19:00放送の「ニュース7」では、次の2つの文が見られる。 今後、余震で地滑りも心配されるが、2次災害の起こらないような対策に全力をあげて取り組みたいと述べました。

余震に備えて火の後始末の徹底と緊急避難場所の確認、それに車での移動を極力避けるよう協力を呼びかけました。

 以下では、取り分け緊急性の高いこうした「注意報」や「警報」のような発話に焦点を当てながらも、放送原稿の言語的特徴を追究する。

 

4 語彙の使用頻度とその難易度

 ここで、緊急時放送資料を使用語彙の面から分析し、次の二つの問題を扱う。

@非母語話者が緊急時の放送で、どのような語彙・表現に出会うか

A緊急時の放送で使われる語彙や表現は、非母語話者にとってどのくらい難しいか

 分析の対象となる語彙は、NHK地震原稿で使用された155の用語を基礎に、2つの津波放送で使われた34語を追加し、さらに、筆者自身が地震当日にテレビを見て外国人にとって難しいと感じて記録した11語を付け加えた、合計200語である。なお、分析の対象にした200の語は原稿に含まれている語の全てではない(例えば、「夜」のような語は原稿では使われていたが、分析の対象にしなかった)。

 用語を選択した際、次の3つの基準を使った。

(1)「緊急語彙」 命と関わるという意味で緊急性・重要性の高い単語である。

(2)「横道語彙」 緊急性が高くないが、外国人にとって難しくて分りにくいと思われる語である。外国人は、これらは重要かどうか判断できないので、とりあえずその意味を調べようとするが、これで貴重な時間の無駄遣いになってしまう。

(3)「頻用語彙」 その他、ニュース資料で頻繁に使われている単語である。

 200の用語がそれぞれ緊急時放送資料に何回使われるかを数え、これを語の出現頻度とした。例えば、「地震」は339回現れた。その他には、被害(176)、震度(100)、災害(82)、余震(55)、震源(58)などがよく現れた。

 次に、緊急放送に使われたこれらの用語が非母語話者にとってどの程度分りにくいかを計ることにした。その計測を行なうために、『日本語教育のための基本語彙調査』と『教育基本語彙』2つのリストを参考にした。

 『日本語教育のための基本語彙調査』には、日本語学習者にとって最も重要である6千余りの語彙が収録されている(国立国語研究所 1984:21-22)。注9この6千語は表2の「F」(フォリナー)欄では、丸(○)がついている。さらに、この6千語のうち、2千語余りは、特に日本語を学習する人達にとっては必要不可欠出ると判断しているものがあるが、これらは表2で二重丸(◎)がついている。

 一方、『教育基本語彙』には、日本語母語話者が中学校を終えるまでに習得すべき約2万の語彙が収録されている(阪本一郎 1958)。この本では、阪本がそれぞれの収録語について、学校教育における重要性を示すランクをつけている。表2の「N」(ネーティブ)欄では、阪本の上位3段階に含まれる7千5百語に丸をつけた。このうち、最も基本的とされている2千5百語を二重丸にした(阪本一郎 1958:376)。

 この表の見方は次の通りである。まず、「頻度」は、今回調査の対象とした「緊急時放送資料」(「NHK津波」と「民放津波」の文字化資料と「NHK地震原稿」)にそれぞれの単語が出現した回数を言う。「揺れ」という単語は34回資料に現れたことが分る。次に、「揺れ」という用語は、ネーティブの欄では二重丸になっている。これは、日本語を母語とする人達にとって、これが基本語彙の中でも、最も基本的な用語であることを示している。日本人なら、小学校を出るまでに、憶える用語である。一方、フォリナーの欄には丸はついていない。つまり、「揺れ」は日本語教育ではさほど重視されない用語なので、日本語学習者に教えるべき用語のリストにはまったく含まれていない。また、「消防」(やそれを含む複合語の「消防車」など)は、日本人が受ける学校教育においては、基本語彙の中でも最も重要な用語になっている。「消防」は、外国人のための基本語彙のリストには含まれているものの、最も重要な語彙には入っていない。

 もちろん、この二つのリストの作成の目的も方法も違う。注10それに、日本人ネーティブの「基本語」の数は7500で、「最重要語彙」の数は2500であるのに対して、フォリナーの語彙の数はそれぞれ6000強と2000強である。つまり、ネーティブの語彙の数が多いので、このリストに含まれているのに、フォリナーのリストに含まれていない語彙が現れることは当然とも言える。しかし、逆にフォリナーのリストだけに含まれている語彙もある。表2の最後の方を見ると、例えば、「対策」は日本語学習者の基本語彙であることが、日本人の学校教育の7、500語彙の基本語彙には含まれていないことが分る。また、「方針」は日本語学習者にとっては「最重要」の語彙であるが、日本人の学校教育においては、基本語彙であっても、「最重要」の2500の語彙には含まれていない。したがって、この二つの語彙表との間には様々な相違点があることを承知の上、あえてそれを比較対照することにした。なぜなら、適切なデータがないからである。

 表2で、ネーティブの方でより重要視されている単語には、「揺れ」、「消防」、「警報」、「下敷」、「消化」、「山崩れ」、「きしむ」、「ひび」など、その緊急性が(状況によっては)極めて高いと言える用語が含まれている。注11一方、フォリナーの方が重要となっている用語には、「破損」や「崩壊」、それに「緊急」ということば自体が含まれているものの、そのほとんどは、「影響」や「対策」のように、緊急性の低い抽象的な用語であることと認めざるを得ない。

 こうした違いの背景には、外国の成人を対象とした日本語教育と、日本の子供を対象とした総合的な学校教育との根本的な相違に基づいた、重要性の判断基準の違いがある。しかし、違いの根拠はともあれ、緊急事態において、日本人なら小学生で理解できることばは非母語話者にとって理解不可能の場合があることもまた事実と認めなければならない。

 なお、表2から分ることは、ネーティブとフォリナーの違いだけでない。同じ欄で、類義語を比較することによって、そのどちらがより理解しやすいかを検討することができる。表の真ん中に位置する、ネーティブとフォリナーの両方において同じ記号のついた項目に注目したい。例えば、「火災」は2つの丸がついているが、「火事」は2つの二重丸がついている。これで、「火災」よりも「火事」が重要な用語とされていることが分る。つまり、日本人(特に子供)にしても外国人にして、「火事」の方はより多くの人に理解されることが考えられる。しかし、それにも関わらず、資料では、より分りにくい「火災」(使用回数16)の方が「火事」よりも4倍使われていることが分る。また、注意を呼びかけるときに、「損壊(した家に近寄るな)」よりも、「被害(を受けた家)」と表現した方がより分りやすいが、「かたむいている(家)」と言った方がさらに分りやすいのではないか。

 さて、ここまでは、緊急時放送資料で使用された語彙の重要性について、母語話者を対象とした教育の場合と、非母語話者を対象とした教育との場合との違いを考察した。表2では、非母語話者を対象とした「日本語教育」の重要性を2段階だけに分けていた。2段階にしたのは、日本語のネーティブに関する2段階のデータとの比較をするためであった。ここでは、それぞれの語彙項目が非母語話者にとってどの程度難しいかをより詳細に判定するために、筆者が新たなランキングを行なった。その方法は以下の通りである。

『日本語教育のための基本語彙調査』という報告書では、日本語学習者が知ることが重要だと思われる6千以上の単語を表にして載せている。その内、特に重要だと思われる2千くらいの単語を選んでいる。それに、今まで、独自に作成された同じような7つのリストの収録語彙をまとめて、一覧表にしている。注12そこで、筆者が、今回の緊急時資料から選び抜かれた200の語について、それぞれがこの9つのリスト(7つのリスト+6千語のリスト+2千語のリスト)のうちのいくつに含まれているかを数えて、この数字を1から10までの指数に置き換えたた。すなわち、9つのリスト全てに載っている単語は指数1とし、8つのリストに載っている単語は指数2とし、7つは指数3、6つは指数4、5つは指数5、4つは指数6、3つは指数7、2つは指数8、1つは指数9、0のリストに載っている単語は指数10とする。

 

表2 語彙の重要性の差異
 

頻度
N F
揺れ 

警察署

34

5
◎ 

 
消防(局4車1庁2) 

応援

揺れる

16

7

0
◎ 

○ 

棟 

救助(法 6)

警報

下敷

消火

人命

海底

山崩れ

押し寄せる

海洋

横倒し

海面

きしむ

ひび

54

30

18

7

7

6

4

3

2

2

2

1

0

0
○ 

 
地震 

海岸

警察(庁 18)

見舞(金 6)

けが

注意

水道

危険

ガス

火事

かたむく

電気

漏れる

339

31

24

20

19

15

7

6

5

5

4

3

3

2

1

0
◎ 

◎ 

被害 

災害

気象(庁 71)

観測

沿岸

輸送

不通

火災

家屋

停電

記者

会見

警戒

調査(団 9)

視察

死亡

達する

発生

犠牲(者 3)

海上

呼びかける

回復

厳重

生存(者 1)

報道

176

82

80

58

25

21

19

16

15

13

12

11

9

9

8

8

8

8

3

2

2

1

1

1

1
○ 

○ 

震度 

震源(地 14)

余震

本部

マグニチュード

操業

倒壊

復旧

避難(場所 6)

気象台

損壊

被災(者6;地 6)

活断層

注意報

救援(隊 2)

把握

直下型

警備

要請

給水(車)

断層

亀裂

高架

推定

測候所

高台

半壊

解除

機動隊

世帯

第一波

通行止

河口

全壊

断水

回線

閣議

岩盤

警視庁

自治体

措置

中震

予知

大地震

全線

炊き出し

大規模

行方不明

入り江

運休

仮設住宅

がけ崩れ

渓流

激甚

船舶

停泊

防災

ガス漏れ

安否

生き埋め

応急

顕著

殺到

焼失

地盤

甚大な

潮位

点検

入荷

復興

保安部

連携

プレート

ライフライン

一報

液状化

懐中電灯

壊滅

閣僚会議

勧告

岸壁

義援(金)

支障

死傷(者)

周期的

深甚な

浸水

地滑り

巡視船

前兆

待機

中規模

転覆

発令

パトカー

瓦礫

震災

地崩れ

縦揺れ

暖をとる

土砂崩れ

横揺れ

100

58

55

47

39

28

28

27

23

22

22

21

18

17

15

14

13

11

11

10

9

8

8

8

8

8

8

7

7

7

7

7

6

6

6

5

5

5

5

5

5

5

5

4

4

4

4

4

3

3

3

3

3

3

3

3

3

3

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0
  

 

  

 

活動 

影響

範囲

予想

研究(家)

方針

不足

設備

命令

47

26

19

6

5

5

4

3

1
○ 

◎ 

津波 

対策

派遣

高速道路

状況

停止

規模

設置

死者

確保

緊急

物資

検討

援助

指摘

食料

自衛(隊 7)

部品

供給

破壊

現象

天災

到達

紛失

分析

崩壊

障害

破損

無線

93

60

43

39

31

29

21

17

14

11

11

10

9

8

7

7

7

6

5

3

2

2

2

2

2

2

1

1

1
  

 

○ 

 

表3 「日本語教育」における重要性
 
語彙

頻度
LR
注意 

研究(家 1)

電気

15

7

5

3

1

1

1

1

1

海岸 

影響

水道

危険

ガス

31

26

6

5

5

2

2

2

2

警察(庁 18) 

範囲

かたむく

命令

揺れる

24

19

2

1

0

3

3

3

3

地震 

活動

けが

供給

火事

設備

339

47

19

5

4

3

3

4

4

4

4

4

4

食料 

予想

方針

現象

漏れる

7

6

5

2

0

5

5

5

5

見舞(金 6) 

調査(団 9)

達する

犠牲(者 3)

20

9

8

3

6

6

6

災害 

対策

停止

規模

輸送

停電

記者

視察

発生

応援

自衛(隊 7)

部品

不足

崩壊

呼びかける

障害

生存(者 1)

報道

無線

82

60

29

21

21

13

12

8

8

7

7

6

4

2

2

1

1

1

1

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

7

被害 

津波

気象(庁 71)

観測

派遣

状況

沿岸

不通

設置

火災

消防

家屋

会見

確保

緊急

物資

警戒

援助

死亡

指摘

破壊

海上

到達

紛失

分析

回復

厳重

176

93

80

58

43

31

25

19

17

16

16

15

11

11

11

10

9

8

8

7

3

2

2

2

2

1

1

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

8

高速道路 

死者

検討

天災

破損

雪崩

39

14

9

2

1

0

9

9

9

9

9

震度 

震源(地 14)

余震

本部

マグニチュード

揺れ

救助(法 6)

操業

倒壊

復旧

避難(場所 6)

気象台

損壊

被災(者6;地 6)

活断層

警報

注意報

救援(隊 2)

把握

直下型

警備

要請

給水(車 4)

断層

亀裂

高架

推定

測候所

高台

半壊

解除

機動隊

下敷

消火

世帯

第一波

通行止

河口

人命

全壊

断水

回線

閣議

岩盤

警察署

警視庁

自治体

措置

中震

予知

大地震

海底

全線

炊き出し

大規模

行方不明

入り江

運休

仮設住宅

がけ崩れ

渓流

激甚

船舶

停泊

防災

山崩れ

ガス漏れ

安否

生き埋め

応急

押し寄せる

海洋

顕著

殺到

焼失

地盤

甚大な

潮位

点検

入荷

復興

保安部

横倒し

連携

プレート

ライフライン

一報

液状化

懐中電灯

壊滅

海面

閣僚会議

勧告

岸壁

義援(金 1)

支障

死傷(者 1)

周期的

深甚な

浸水

地滑り

巡視船

前兆

待機

中規模

転覆

発令

パトカー

瓦礫

きしむ

震災

地崩れ

縦揺れ

暖をとる

土砂崩れ

ひび

横揺れ

100

58

55

54

47

39

34

30

28

28

27

23

22

22

21

18

18

17

15

14

13

11

11

10

9

8

8

8

8

8

8

7

7

7

7

7

7

7

6

6

6

6

5

5

5

5

5

5

5

5

5

4

4

4

4

4

4

3

3

3

3

3

3

3

3

3

3

3

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0
10 

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

10

 

 表3では、それぞれの語彙の出現頻度と、筆者のランキング(LR)を示している。これからの研究では、この表を使って、使用されている語彙が外国人にとってどれくらい分かりにくいかを判定すると共に、外国人向けの文を作成する場合、より分かりやすい文を書くために、参考にすることが可能であろう。

 

5 文の長さと分りにくさ

 ここまで、「緊急時放送資料」を語彙の難易度から見てきたが、発話の分かりにくさに関与しているもう一つの要因として、文の長さが上げられる。そこで、資料に含まれている文を計ることにした。文の長さの指数としては、文節数を計った。注13

 資料全体の507文には、8117の文節が含まれている。資料で最も短い文は2文節で、最長は95文節である。8117文節を507文で割り算すれば、平均値(mean)が16.0になる。平均値は、データ項目の「一般的」なものとして抽出される数字であるが、もう一つの一般的な数字としてあげられるのは、中間数(median)である。中間数とは、データ集合の数字を全て最小なものから最大なものへ並べたとき、ちょうど真ん中に位置する数字である。資料の507文を順番に並べたとき、中間にあたる254番目の文の長さは15文節である。これが中間数である。

 なお、3つの資料を分けて集計してみると、大きな違いがあることが分かる。「NHK地震」の原稿の中間数は17であるのに対し、NHKと民放に関する津波に関する速報はそれぞれ地震ニュースの半分以下の9と7になっている。従って、以下では、3つの資料を別々で見ることにする。

 さて、地震のニュースよりも2種類の津波速報は文節が短いことが分かったが、これらを他のデータと比較して、中間数は果たして長いか短いかを検討しよう。表4では、日本の公立学校(小学1年から高校3年まで)で使われる教科書の文との比較をしている。教科書の文と比べて、2種類の津波ニュースはけっして長くないが、地震原稿の文は非常に長いことが分かる。高校3年の教科書の中間数は12となっている(阪本一郎 1964)が、この値はむしろNHK地震原稿のQ1(第1四分位数)に匹敵する(表4)。こうしたことから、ニュースの長い文の方が分かりにくいことを示唆しているように思われる。

 大人向けに作られているNHKニュースが、高校生向けの文章よりも長文であることは当然という考え方もある。しかし、話者は、高校を卒業すれば社会の一員となるので、2つのデータを比べるのは、けっして不適切な比較ではないであろう。それに、教科書は文の長さは徐々に伸びていることは図3で分かるが、これらの数字と地震原稿の17との差はあまりにも大き過ぎる。さらに、教科書は「書きことば」であることには議論の余地はないが、NHKの放送原稿を「書きことば」として扱うか、「話しことば」として扱うか、検討が必要である。放送の原稿とは、あらかじめ用意された文章を話し手が読み上げるものなので、文の形式は書きことばに非常に近いが、受け手である視聴者にしてみれば、この原稿がもちろん見えるわけではないので、彼らにとってみれば、放送原稿は話しことばであると考えて方が良さそうである。そこで、今回の資料を話しことばの文の長さに関するデータと比較してみることにした。

 

   表4 文節単位で計った文の長さ

―各学年教科書(阪本1964)と緊急時放送資料(ロング)の比較―


 
学年・資料
Med
Q1
Q3
Q
Ml
最短
最長
小1 教科書 

2 〃

3 〃

4 〃

5 〃

6 〃

中1 〃

2 〃

3 〃

高1 〃

2 〃

3 〃

3

5

6

8

9

10

10

10

11

11

11

12

2

3

4

6

6

6

6

6

7

7

8

8

5

7

9

11

13

13

14

15

15

17

18

19

1.5

2

2.5

2.5

3.5

3.5

4

4.5

4

5

5

5.5

6.3

9.2

12.3

15.4

17.1

18.3

20.4

22.3

24.5

24.5

25.7

27.1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

1

15

19

30

32

43

42

58

79

55

87

89

67
民放津波 

NHK津波

NHK地震

7

9

17

5

6

12

10

13

22

2.5

3.5

5

14.8

17.7

28.7

2

2

4

25

23

95

Med(中間数,中位数=最短の文から最長の文へ並べたとき、ちょうど中間に位する文の長さ)

Q1(第1四分位数=最短から数えて全標本数の1/4番目に位する文の長さ)

Q3(第3四分位数=最短から数えて全標本数の3/4番目に位する文の長さ)

Q (四分偏差=Q3−Q1の値を2等分したもの。標準偏差と同じように、散布度を示す指数)

Ml (長い文の平均値=第4四半分のmean)

 

 さて、図4では、緊急時放送資料と、話しことばの2種類のデータと比較しよう。(この文献には、中間数ではなく平均値を使っているので、それに従って平均値を使うことにした。)まず、小説に出てくる会話文の平均文節数は、5.24という研究結果がある(樺島忠夫 1953)。一方、日常談話において、1文当たりの平均文節数は3.81であるという統計がある(国立国語研究所 1955)。今回の資料は、「民放津波」は8.4、「NHK津波」は10.4、「NHK地震」は18.0となっている。つまり、「NHK地震」の文は、小説会話文の3.4倍、自然会話の4.7倍の長さになっていることがわかる。しかも、3つの資料で最も文が短い民放の津波報道でさえ、同じ「音声言語」のデータと比較した場合、文が非常に長いということが分かる。この結果から、日本語の日常会話を問題なく話せる非母語話者の場合ですら、緊急時報道を理解するのは、かなりの難しかったことが想像される。

 

図3 教科書と放送資料の文の長さ

―中間数の比較―

 

図4 会話と放送資料の文の長さ・複雑さ

―平均値の比較―

 

  

 表5で分かるように、文節の平均値では、「NHK津波」(10.4)と「NHK地震」(18.0)との間に有意差がt検定によって認められた(p<.001)。「NHK地震」(18.0)と「民放津波」(8.4)も同様である(p<.001)。同じニュースでもこうした差はどうして現れているかというと、おそらくそれらのスタイルの違いが最も関与していると思われる。地震関係の資料は、受け手にとっては音声として受け取るメッセージではあっても、送り手にとっては読み上げる原稿であった。一方、2つの津波の速報は、書かれた原稿の読み上げ以外にも、現場にいたレポーターとスタジオにいたアナウンサーとの対話型の報道が混ざっていたのである。この対話型の報道により、短い文も頻繁に使われたゆえに、全体としてはもっと分かりやすい印象を与える。

  

6 文の構造の複雑さ

 これまで、文の長さと分かりにくさとの関係を考えてきたが、内容の理解と関わっているもう一つの要因は文構造の複雑さである。もちろんこの2つの要因は関連性が高いが、またく同一のものではない。注14構文の複雑な文は自然と長くなる傾向が認められるが、逆に、長文であるからといって、必ずしも複雑であるとは限らない。しかし、文の長さとの関係はともあれ、文の構造が複雑であればあるほど、その意味が分かりにくくなることは当然であろう。

 文構造の複雑さの指数としては、1文あたりの動詞数を使うことにした。今回のデータでは、1文当たりの平均の動詞数は3.91である。この平均動詞数にも、資料の種類による違いははっきり現れている。読み上げ原稿である「NHK地震」(4.42)は最も高く、続いて「NHK津波」(2.46)と「民放津波」(2.03)の順となっている。地震の原稿と津波関係の2つの資料との間に有意差が認められた(p<.001;表5)。さらに、文節数と動詞数とは3つの資料で同じような分布を見せていることは、今回のデータ全体において、文の長さと文の複雑さとの相関関係があることを示唆しているように思われる(図4)。

 資料には、動詞が1つだけの単純な文から、下の文のように、10の動詞から形成されている複雑な構造をもった文もある。なお、この文は本稿の第3節で述べた「働きかけ機能」を果たす「注意報」に当たるので、資料の中でも、とりわけ緊急性の高い文と思われる。

また、夜になって避難していた住民たちが自宅に帰り、充満していたガス漏れのガスに気づかず夕食の準備や暖房のスイッチを入れ、新たな出火が起きているという情報があり、消防ではガス漏れにも十分気をつけるよう呼びかけています。 (1995年1月17日,19時00分のNHK「ニュース7」放送,原稿番号140/210)

  

表5 ニュースの文の長さ・複雑さ ー資料の比較ー

長さ


項目 NHK地震 NHK津波 民放津波 合計
文の数 

文節の数

標準偏差

最大文節数

最小文節数

平均文節数

391

7065

8.54

95

4

18.1

41

425

5.49

23

2

10.4

75

627

4.90

25

2

8.4

507

8117

8.76

95

2

16.0
有意差  p<.001    無  

 

複雑さ
 
項目 NHK地震 NHK津波 民放津波 合計
動詞の数 

標準偏差

最大動詞数

最小動詞数

平均動詞数

1727

2.54

16

1

4.42

101

1.47

7

1

2.46

152

0.98

5

1

2.03

1980

2.49

16

0

3.91
有意差  p<.001    無  

 

 なお、図4では、文の長さの指数としての「一文あたりの平均文節数」以外にも、文の複雑さの指数としての「一文あたりの平均動詞数」を示している。3つのニュース資料では、この2つの指数は非常に似たパターンを表している。これは、文の長さと文の複雑さというのは、2つの異なる要因ではあっても、2つは非常に深い関係にあることを意味しているように思われる。

 阪本は書きことばにおいて文の読みやすさの測定法を開発している(阪本一郎1962,1963,1964,1965,1971;阪本一郎編 1971)。これからは、この方法論を元に、音声として聞いた発話の理解しやすさを計る方法を模索してみたい。

 

7 「やさしい日本語」に向けて

 本稿では、緊急時における非母語話者の言語問題を考察した。これは、社会言語学の研究法をいかしたいわゆる「応用社会言語学」の一試論でもある。筆者が言う「応用社会言語学」とは、すなわち、(1)フィールド・ワークに基づいて、実際のデータを収集し、そして、(2)そのデータを統計学的に処理する、という2点を強調する研究分野である。こうした研究はずでに、イギリスや米国で行なわれているのである。注15韓国の社会言語学のおいても、言語政策の研究が大きな割合を占めているようである(任栄哲 1994)。例えば、在日・在米韓国人および韓国系の人々の言語生活の実態を調査した任栄哲は、その研究は、「言語政策はもちろん、言語教育等の重要な資料となる」と、自分の研究の意義を説明している(任栄哲 1993:26-27)。こうした研究の背景には、研究者自身は人間コミュニティーの一員であると実感し、そして、何らかの形でそのコミュニティーに貢献したいといういわば使命感を感じるがある。

 社会言語学者の使命について、アメリカの社会言語学者W.ラボフは、「法廷における言語学理論の検討」という名付けられた論文で、「人のため、社会のためになる社会言語学の可能性」と題する節で、次のように述べている。

 いままで、学者は、知識をそれ自体のために追究した。教授は学生に、「学問的知識を社会的問題を正すために応用しようとするのは間違いだ」と言ってきた。学者は理論を作り上げるのは、学問的活動の最終目的だと主張してきた。しかし、これこそ間違いだ。(Labov 1988:159)  本試論は、緊急事態におかれている非母語話者が直面する言語問題を様々な側面から考察したが、この研究の最終目的は、非母語話者に分かりやすい言語使用域(レジスター)を作ることにある。これは、筆者が参加した「緊急時言語対策」研究会が提唱した「やさしい日本語」のようなものである(真田信治 1996;佐藤和之 1996)。上では、「やさしい日本語」の製作に向けて、エンペリカルなデータを収集、分析することの重要性を強調したが、この目標に向かって、すでに非母語話者の理解を計る実験を行なっている研究者もいる(松田陽子 1996;ナカミズ・エレン,陳於華 1996;ロング・ダニエル,姜 錫祐 1996)。

 本稿では、「やさしい日本語」の具体的な条件を定めるための研究法を模索してみた。取り組むべき課題は、使用語彙の選定や、適切な文節数や動詞数の設定だけではなく、むしろ何を定める必要があるかという根本的な問題である。この研究はまだその準備段階にあるが、阪神大震災の直後に湧き出たこうした研究への研究者たちの熱意が完全に冷めきらない内に、筆者はこうした研究の基盤を築いておきたいと思うのである。

 

参考文献

朝日放送株式会社ラジオ局・調査局編 (1995)『阪神大震災とラジオ』朝日放送株式会社

任 栄哲 (1993)『在日・在米韓国人および韓国人の言語生活の実態』くろしお出版

任 栄哲 (1994)「韓国の社会言語学 ―日本との比較を中心に―」『日本語学』9月号:31-39

江川 清 (1977)「大震災におけるパニック対策 警視庁災害対策課にきく」『言語生活』 313:54ー61

加藤 彰彦 (1963-64)「日本語教育における基礎学習語」『日本語教育』 2.4-5:●-●

樺島 忠夫 (1953)「文の長さについて」『国語学』 15:21-31

国際文化振興会 (1944)『日本語基本語彙』 国際文化振興会

国際防災の10年国民会議事務局編 (1995)『阪神・淡路大地震における在日外国人被災状況の調査』都市防災研究所

国立国語研究所 (1955)『談話語の実態』(報告8) 国立国語研究所

国立国語研究所 (1962)『現代雑誌九十種の用語用字 ―総記および語彙表―』(国立国語研究所報告 21)

国立国語研究所 (1984)『日本語教育のための基本語彙調査』(報告78) 秀英出版

阪本 一郎 (1958)『教育基本語彙』 牧書店

阪本 一郎 (1962)「文章の語彙比重の査定法―Readabilityの研究の一つの試み」『読書科学』 6.1-2:37-44

阪本 一郎 (1963)「国語教科書の文の長さとその測定法」『読書科学』7.2:17-24

阪本 一郎 (1964)「文の長さの比重の査定法―Readabilityの研究の試み―」『読書科学』 8.1:1-6

阪本 一郎 (1965) 「現代ジャーナリズムの文の長さ」 『読書科学』8.2:11-17

阪本 一郎 (1971)「読みやすさの基準の一試案」『読書科学』14.1-2:1-6

阪本 一郎 編 (1971)『現代の読書心理学』 金子書房

佐藤 和之 (1996)「外国人のための災害時のことば」『言語』2:94ー101

真田 信治 (1989)『日本語のバリエーション ―現代語・歴史・地理―』 アルク

真田 信治 (1996)「『緊急時言語対策』の研究について」『言語』1:94ー99

消防庁防災課編 (1993) 『防災の手引き』 防災科学総合センター

杉原 達 (1996)「阪神大震災と多言語放送」『言語』8:88ー93

玉村 文郎 (1978) Practical Japanese-English Dictionary 海外技術者研修協会

東京都港区防災課 (1993)「在留外国人に対する防災対策」『消防科学と情報』33:12-16

ナカミズ・エレン,陳於華 (1996)「緊急時における言語問題とその対策」『言語』4:94ー101

名古屋市消防局 (1993)「国際化への取り組み」『消防科学と情報』33:17-20

平野 桂介 (1995a)「自治体の国際化と多言語サービス ―東京都の場合―」『「国際社会における日本語についての総合的研究」第1回研究報告会予稿集』 文部省科学研究費(創成的基礎研究費)「国際社会における日本語についての総合的研究」(略称:「新プロ「日本語」)研究代表者 水谷 修 課題番号:06NP1201, 59-60

平野 桂介 (1995b)「自治体の国際化と多言語サービス ―東京都の場合―」『「国際社会における日本語についての総合的研究」第2回研究報告会予稿集』 文部省科学研究費(創成的基礎研究費)「国際社会における日本語についての総合的研究」(略称:「新プロ「日本語」)研究代表者 水谷 修 課題番号:07NP1001, 55-58

文化庁国語課 (1975)『外国人のための基本語用例辞典』文化庁

文化庁文化部国語課編 (1996)『国内の日本語教育の概要』文化庁

毎日放送ラジオ局 (1995) 『阪神大震災の災害報道に関する被災地調査報告』(公表資料3枚)

松田 陽子 (1996)「多様な外国人に対する情報提供を考える」『言語』3:95ー100

吉田 弥寿夫,樺島 忠夫 (1971)「留学生教育のための基本語彙表」『日本語・日本文化』(大阪外国語大学) 2:●-●

ロング・ダニエル,姜 錫祐 (1996)「外国人における緊急時報道の理解について」『言語』5:98ー104

 

Labov, William (1988) The Judicial Testing of Linguistic Theory. Linguistics in Context: Connecting Observation and Understanding, ed. D. Tannen. Norwood,NJ: Ablex, 159-82.

Neustupny, Jiri (1977) A Classified List of Basic Japanese Vocabulary. Melbourne: Monash University, Department of Japanese.

NHK (1996) Studies of Broadcasting. International Annual of Broadcasting Science.

Rickford, John, Thomas Wasow, Norma Mendoza-Denton, Julie Espinoza (1995) Syn- tactic Variation and Change in Progress: Loss of the Verbal Coda in Topic- restricting as far as Constructions. Language 71.1:102-131.

Trudgill, Peter, ed (1984) Applied Sociolinguistics. Academic Press.

 

1 本稿で紹介するデータの一部は、文部省科学研究費(創成的基礎研究費)「国際社会における日本語についての総合的研究」(略称:新プロ「日本語」)の一環として行なわれた「日本語を母語としない人々のための緊急時言語対策に関する研究」(略称:「緊急時言語対策」)で収集されたものである。また、関連文献の収集に当たって、井上史雄氏がご協力してくださったので、御礼を申し上げる。A portion of this research was carried out under the auspices of the project on "The Language Component of Emergency Contingency Planning", a part of the "Comprehensive Study on the Japanese Language in the International Community" project.

 なお、本稿は、1996年6月22日、ソウルの中央大学校日本研究所国際学術発表会にて、筆者が発表した「応用社会言語学の試み ―緊急時報道と非母語話者の言語問題―」を増訂したものである。発表会で詳細に助言してくださった方々への御礼を申し上げたい。また、本稿のデータ分析や構成について具体的に助言してくださった松田陽子氏、Stephen Horn氏、および大変な時期に面接調査にご協力してくださったインフォーマントにも深く感謝している。

2 被災した外国人(定住している在日韓国・朝鮮人を対象からはずした)100人を対象にした聞き取り調査では、「いろいろな情報をどこから得ましたか」という複数回答の質問に対し、最も多い回答は、「テレビ」(75人)であった。これに比べて「ラジオ」の28人は、「日本の友人や知人」(37人)と「新聞」(33人)に次いで、4番目となっている。同様に、「最も信頼した情報源は何ですか」では、「テレビ」(41人)が第1位であったのに対し、「ラジオ」(10人)は2位となっていた(国際防災 1995:46-47)。

 一方、日本人の被災者を対象にした2つの違う調査では、ラジオが第1位になっている。朝日放送の個別訪問面接調査では、「地震に関する情報を、一番最初に何から知りましたか」という質問に対して、「テレビ」(53.3%)が「ラジオ」(38.8%)を多くリードをし、「地震直後からしばらくの間、最も頼りになった情報源は何ですか」という質問に対しても同様である(51.8%対37.5%,朝日放送 1995:30-32)。また、毎日放送の街頭面接調査では、「最初に地震に関する情報を得たのは?」という問いに対して、「ラジオ」と答えた61.2%が「テレビ」の20.2%を大きく上回っている(毎日放送 1995)。

 日本人と外国人との間になぜこれほど大きなギャップが生じているかを考えなければならない。もちろん、ラジオが最もよく利用されているという結果が出たのはラジオ業界自身が行った調査であるのはやや気になるが、原因はそこにはないと思う。むしろ、次のデータがこの相違の要因を秘めているではなかろうか。先ほどの外国人を対象にした調査では、「最も信頼した理由は何ですか」という質問では、それぞれの情報源について、それぞれの理由があげられているが、回答全体で最も多かったのは、「テレビ」についての「実際に目で見えるから」(16人)であった(国際防災 1995:48)。以上のデータを考え合わせれば、日本語を母語としない人々は、音声のみによる情報は理解しにくいから、視覚的な情報を伴うテレビを見る、ということも推測できる。

3 1964の「新潟地震」の後に行われた警察庁の調査では、「誰からデマを聞いたか」という質問に対し、「ラジオ」と「近所の人」は同点で、第1位になっている。江川清はこの結果を次のように解説している。「ラジオや警察からデマを聞いたとする回答も少なくない。このうちの大部分は受け手の側の誤解によるものと思われるが、情報の送り手側にも説明不足とか説明の力点に問題がないとはいえないだろう。」(江川清 1977:58)ここで言えることは、マスコミが伝える情報が正しくさえあればよいというものではない。それゆえ、本論で筆者が後に述べるように、外国人を含めて、視聴者たちが、その情報がちゃんと理解できるように報道しないと、視聴者が分らないだけどころか、誤った解釈によるデマすら生み出す可能性がある。

4 注2で紹介した聞き取り調査では、「放送内容に不満な方は、どの様な内容であればよかったですか」という質問に対し、最も多い回答は、「情報量を多くする」(25人)と「言語の種類を増やす」(24人)の2つであった(国際防災 1995:52)。

5 Jさんの日本語学習経験は、日本で、1年4ヵ月であった。最初は週に1回の個人レッスンで、その後6週間YWCAでレベル2の授業を取ってた。その後は4週間ヒューマンアカデミーの初級の一番上のクラスに入っていた。

6 Mさんの日本語学習の経験は、来日前にカリフォルニアの大学で10週間の集中講座を受けて、来日後、大阪のYWCAで6ヵ月間、個人のチューターで6ヵ月日本語を学習している。

7 真田信治1996では、本人が直接相談を求めた場合と、代理人の場合と両方の統計を示しているが、ここでは、本人に関するデータのみを分析の対象とする。

8 ニュース原稿は、神戸商科大学の松田陽子が、日経ニュース・テレコンという有料サービスを通じて、1995年1月17日付の地震関連のニュースを選んだ。

9 この語彙が選ばれた過程やその基準については国立国語研究所 1984:21-22を参照されたい。また、報告書では、それぞれの語彙が重要度によってランキングされているが、本稿では、その結果には触れない。

10 『教育基本語彙』と『日本語教育のための基本語彙調査』の作成目的は違うが、真田信治によると、日本における「基本語彙」の研究のきっかけとなったのは、1930年代の非母語話者を対象とした日本語教育の促進であった(1989:123-60;特に127頁)。すなわち、母語話者教育における基本語彙研究と、非母語話者教育におけるそれとは、当初から深く関わっていたのである。

11 なお、「きしむ」や「ひび」の頻度がゼロになっているのは、先の語彙の選定基準の説明で触れたように、これらは「緊急時放送資料」から抜出したものではなく、筆者が地震当日のニュースを見ながら「外国人にとって難しい単語」というふうに感じて、記録したものだが、たまたま調査対象となって資料には出現しなかった。

12 7つの用語リストとは、次の通りである。詳細については国立国語研究所1984を参照されたい。

@ 国際文化振興会 1944(収録語数2012語),A 加藤彰彦 1963-64(1393語),B 玉村文郎 1978(3209語),C 吉田弥寿夫,樺島忠夫 1971(1803語),D 文化庁国語課 1975(3691語),E Neustupny, Jiri 1977(1796語),F 国立国語研究所 1962 (1220語)

13 「文節」の定義・条件の詳細については阪本1964に従った。なお、ここで言っている「文節数」は阪本一郎の「語数」に当たる。

14 英語における文の(単語数による)長さと統語論的な構造による複雑さとの違い、およびそれらの要因を採用した社会言語学的な研究については、Rickford 1995を参考されたい。

15 ここで言う「応用社会言語学」は、"Applied Sociolinguistics"のとして使っているが、様々な研究例については、イギリスの社会言語学者Peter Trudgillが編集したApplied Sociolinguisticsという論文集を参考されたい(Trudgill 1984)。