福井貴代美(2008)「日本語学習者の韻律の習得に教室内指導が果たす役割―複合語のアクセントを例にして―」 『日本語教育と音声』pp.233-260

 教室内での音声指導教育として、韻律に関する指導を取り上げ、特に複合語のアクセントの問題に 注目している。複合語のアクセント規則の導入、プロソディーグラフ、自己モニター型の学習を取り入れた指導の実践とその効果について報告している。指導の効果については、指導前後に行った聞き取りテストと発音テストの結果をもとに検討し、その効果を確かめている。結果はどの学習者にも指導後の伸びが確認された。また、上級者のテスト結果との比較を行ったところ、上級者であっても指導の受けていない者の評価は低く、この指導法の重要性を示唆している。さらに聞き取りテスト結果と自己モニター力、発音テスト結果に関連性が見られるとしている。(文責:柴田沙矢香)


古本裕美・福田倫子(2008)「日本語学習者の文聴解における予測過程の検討」,『日本語教育研究』第18号,広島大学,pp.71-77

 本研究は聴解において行われている予測の過程を詳細に検討することによって、予測能力と作動記憶容量との関連を明らかにしようとするものである。調査には準SPOT(Symple Performance-Oriented Test)課題、ストループ課題、LST(Listening span test)を使用した。このうち、準SPOT課題は、音声の有無、空欄の位置を分け、そのテスト結果により聴解(日本語)能力を測定し、その解答過程を予測能力の検討材料とした。またストループ課題により日本語熟達度を、LSTにより作動記憶容量を測定した。  結果として「予測能力と作動記憶容量には関連があり、容量が大きい方が予測能力が高い」という仮説は支持されなかった。また、解答の正答・誤答の組み合わせから 新近性効果が確認された。知識が正しい選択を妨げる様子が観察された。空欄の位置の違いによる成績差から、聴解が要求する複数の活動を一度に行うことができるかど うかが成績に影響を与えるのではないかということが推測された。(文責:神谷英里)


宮城 幸枝・中村 フサ子 (2007)「聴解指導を通して促進される漢字語彙の習得」 『東海大学 留学生教育センター 紀要』 第27号, pp.31~42

 本論文は聴解に焦点を当てた指導によって同時に漢字語彙の習得が促進することが推測されることから、韓国語を母語とする学習者の中級クラスと、漢字圏・非漢字圏学習者混成の中級クラスで別々に調査を行った。目的は内容理解に焦点を当てた聴解によって、漢字の読みについてどれぐらい学習が促進するのか、指導法によって習得度に差が出るのか。また聴解指導を通しても正確に習得されない、あるいは授業前の誤りが修正されにくい読みはどのようなものか、授業中に覚えた漢字語の読みは一定期間後にも記憶しているかどうかを検証すること。結果、2つの調査により、内容中心の聴解活動で漢字語を読む力の向上に効果的であること、また、聴解活動により習得した漢字語の読み記憶は1週間も記憶が保持されていることが明らかになった。しかし、この論文では聴解指導だけで考察を行ったが、聴解と読解による語彙習得の比較は今後の課題として残されている。(文責 魯菲)


堀 恵子(2007)「自習時間のない理工系上級学習者クラスにおける読解教材―読解教材の語彙分析から― 」『専門日本語教育研究』第9号, pp.37-42

本論文は自習時間のない理工系大学院生、研究員を対象とした上級読解を中心に聴解や口頭表現も取り入れた授業の報告である。主教材の話題と関連がある副教材を選出し、実際に授業で使用した。副教材の語彙を分析した結果、日本語能力試験級外語が異なり語数で20%から30%程度含まれていることが分かった。授業後のアンケートからみると、学習者は副教材を評価し、コース全体は面白かったと答えたが、口頭表現力については今後の課題として残された。
キーワード:実践報告、理工系大学院生、読解、口頭表現、副教材、日本語能力試験級外語(文責:王威)


島田 めぐみ(2006)「日本語聴解テストにおいて難易度に影響を与える要因」『日本語教育』129号,日本語教育学会,pp.1-10

 本研究は日本語聴解テストにおいて、選択肢提示形式の違いによる影響、さらにどのような要素が結果に影響を与えるかについて考察した論文である。具体的には、「選択肢の複雑さ(語形式、文形式)」、「課題の明確さ(明確、不明確)」、「談話理解のタイプ(全体理解、局所理解)」、「手がかりの位置(前半、後半)」という四つの項目タイプの問題項目について、文字条件と音声条件の違いは難易度に影響を与えるかどうかを考察した。結果として、文字で選択肢を提示する方が音声で提示するよりも平均値が高いことが分かった。
 選択肢提示形式を変えることにより、問題作成の幅が広がり、難易度を調整することが可能となるが、問題項目をどちらの条件で出題するかを判断する際に、本研究の結果が参考になると思うが、非漢字圏の受験者に対して、そして、日本ではなく、母国で日本語を学ぶ学生を対象とする再実験を行う必要があると思われる。(文責:王瑩<オウエイ>)


鈴木美加 (2006) 「言語要素をまとまりで処理する読解の基礎演習-語の核となる意味の理解と読解における自動化に向けて-」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』32号,pp.109-122

初級・中級の日本語学習者において、「語彙の知識の不足」が文章の理解に大きな障害になると言える。学習者が読みをうまく進めるためには、9割以上の言語要素の既知の上、それらの処理が自動化されることにより文章理解、文章全体の情報の統合や未知語の推測などが可能になる。言語要素としての語の処理を自動化するためには、強く関連する言語要素同士をセットで記憶し、語とその概念のネットワークが作れるようにする練習が必要である。著者はそのための教材「処理時間短縮教材」を開発し、その教材を利用したクラスを運用、学習者を対象に事前テスト・事後テスト及び、教材・授業に関するアンケート調査を行うことで、日本語学習者に有意に効果が見られたという結果を実証した。(文責:閔 竣泓)


福田倫子(2005)「第二言語としての日本語の聴解とワーキングメモリ容量—中国語母語話者を対象とした習熟度別の検討—」 『広島大学大学院教育学研究科紀要』第二部, 第53号pp.299-304

 著者は、働く記憶範囲と短期記憶範囲が第二言語の聴解に影響を及ぼすかどうか明らかにすることにした。実験は、中国語を母語とする日本語学習者を対象とし、習熟度の観点を取り入れた。聴解テスト、ディジットスパンテストとリーディングスパンテストの三種類のテストを行なった。結果は以下の通りである。 (1)一級学習者と二級学習者では、習熟度が相対的に高くなっても、第二言語ワーキングメモリ容量が増大しない。そして、短期記憶範囲も大きくならない。 (2)学習レベルに関係なく第二言語聴解力にワーキングメモリ容量も短期記憶範囲もほとんど変わらない。 (3)習熟度が高い一級レベルの学習者であっても、聴解のメカニズムは母語話者に気づくわけではない。(文責:劉永亮)

舘岡洋子(2005)a 「第3章 第2節 ピア・リーディングの試み」 『ひとりで読むことからピア・リーディングへ日本語学習者の読解過程と対話的協働学習』, pp.105-117

 読みの「過程」で「仲間と協働して」学ぶピア・リーディングを2名の英語を母語とする日本語上級学習者により実施。第1に、学習者は他の学習者から直接に知識が学べる。第2に、他者のテキスト内容の理解、意見や解釈を知ることにより、自己を見直す機会が与えられる。また、仲間とともに学ぶことによって動機付けが高まるとともに、仲間意識の構築、クラス共同体育成に貢献するとの仮説を立てた。プロトコル分析を持って検証を行った。結果、2人で読むことにより自問自答の外化の必然性が生じることに起因して、先の仮説および予想が観察された。しかし、プロトコル分析から仲間同士だけでは不十分であることが伺われた。そこに教師が介在し、適切な促進者・ファシリテーターとして役割を担う時、より学習は促進されるとの見解に至った。 (文責:神村初美)

舘岡洋子(2005)b 「第3章  第3節 ピア・リーディングの実践―読解における協働学習 『ひとりで読むことからピア・リーディングへ日本語学習者の読解過程と対話的協働学習』 pp.117―131

「ピア・リーディング」提案後の実験的試みを経て、読解クラスにおけるピア・リーディングを実践し観察を行った。目的はクラス授業におけるピア・リーディングの効果の検証と、読みの過程に数回の話し合いを挟むことで学習者それぞれの読みに変化が起こるかどうかを検証することであった。授業内容は小説読解とした。結果、話し合いの過程で自己の読みをモニターすることから起こる変化がみられ、読むという個人的な活動を他者との繋がりを持ち相互作用することによって新しい可能性に広がることが明らかになった。これらの検証から実践は「集団的学び」に適用でき、認知面においても個人の成長だけでなく共同体育成への貢献が認められるとの見解に至った。しかし「対立意見を説得する中で自らの論が補強される現象は展開フォーマットであるのかどうか」また「切り出したり疑問を投げかけたりする役割はある程度決まってくるのか」という課題が残された。 (文責:神村初美)


横山紀子(2005)「「過程」重視の聴解指導の効果―対面場面における聴解過程の分析から―」『第二言語としての日本語の習得研究8号』, pp.44-62

 聴解に関する先行研究においてはテープ聴解などの非対面聴解に集中しており、対面聴解に関する研究は大幅に遅れているのが現状である。 聴解はインプットを自らの既有知識と照合しつつ積極的に意味を構築する過程であるとの認識が広まっている。そこで本研究では中級学習者に対し「過程」重視の聴解指導を4ヵ月行った後、対面場面での聴解過程がどのように変化をするか、聴解力の向上に効果が上がるかを検証した。 その結果、対面聴解においては「テキスト」レベルの広範囲モニターが増えた、「質問」が増えたなど効果的な聴解過程に向かう変化が見られた。加えて非対面聴解においても統制群と比べて優位であり「過程」重視の指導効果があったものと結論づけられている。しかし、データ不足により指導効果を「過程」重視の聴解指導のみに依拠することに慎重であり、更なる調査研究が必要であるとしている。また、データ分析は筆者の主観のみに基づいて行われている。客観性保持のため、複数名で明確な基準を策定し分析を行うべきである。 (文責:渡邉千佳子)


三國純子・小森和子・近藤安月子(2005) 「聴解における語彙知識の量的側面が内容理解に及ぼす影響 ―読解との比較から―」『日本語教育』125号,pp.76-85

 日本語の聴解において、内容理解に必要な語彙知識の量的側面(既知語率)を測定し、読解における知見(小森他 2004)と比較検討し、聴解における語彙知識の役割を検討している。実験は、中国・台湾・韓国の日本語学習者を対象に、読み上げられたテキストに対する内容理解問題と既知語率を測定するための課題を行い、内容理解と既知語率の関係を測定している。実験の結果、読解における既知語率の閾値が95~96%であったのに対し、聴解の閾値は93%となった。また、回帰分析の結果も同様に、読解より聴解の方が語彙知識の説明力は低い結果となった。以上のことから、聴解における語彙知識の量的側面は、読解のそれより内容理解に及ぼす影響が小さく、内容理解を促進する要因としての説明力が小さいと示唆している。 (文責:柴田沙矢香)


宇都木 昭(2004)「韓国人日本語学習者の日本語におけるフォーカス発話と中立発話の音声的・音韻的特徴」『日本語教育』121号, pp.86−95

本研究は、韓国人日本語学習者の日本語におけるフォーカス発話と中立発話の韻律特徴を調査した。そして、韓国人学習者の発話を日本語母語話者の発話と比較してみた。韓国人学習者と日本語母語話者の録音データを二組に分けた。分析結果は以下のようにまとめた。前部フォーカス句と後部フォーカス句においては、学習者と母語話者の韻律が似ているが、中立発話においては、両者の違いが見られた。
【文責者評価】 1.日本語のイントネーションや、フォーカスなどの定義を分かりやすく整理している。
2.実験結果によって、韓国人日本語学習者の発音特徴を説明している。
3.被験者の人数がやや少ない。
4.同じ発話文をあわせて3回読み上げたが、実際には毎回とも一回しか発話しなかったため、学習者の韻律が定着しているかどうかが判断できないと思われる。
5.被験者の出身地がまちまちであるため、朝鮮語方言の影響も考えたほうがいい。
(文責:彭韵)


金庭久美子(2004)「リソースの活用を目指した授業—ニュース教材を利用した聴解授業—」『日本語教育』121号, pp.86−95

 一般的な日本語クラスにおいて、認知的アプローチによる全作業・本作業・後作業という授業の流れの中でリソースを利用した。授業において、前作業では、「地域の情報を取り入れる」ため、リソースとの接触結果を報告させた。本作業では、従来の聴解授業に加え、必要な地域情報提供した。後作業では、「地域 社会に送り出す」ため、新たなリソースと接触するための準備活動を行なった。リソース利用の指示の有無で二つの群を比較し、以下の結果が得られた。・指示を与えた群は漢字圏・非漢字圏の学習者の両方ともニュースの聴解テストで伸びが見られている。  ・ニュース視聴の回数が増え、友人との会話が行なわれるなど学習環境に変化があった。 この結果に基づき、日本国内におけるリソース活用のための日本語授業のモデルを提示した。(文責:劉永)


石崎晶子(2004)「作文音読における初級学習者のポーズの特徴―英語母語話者4名の縦断的資料を基に―」『第二言語としての日本語の習得研究』7号,pp.26-43

 学習者の発話がわかりにくい原因の一つとしてポーズの取り方があげられる。本研究は英語母語話者4名が初級終了の9ヵ月間に行った3回の作文音読をデータとし、位置によってポーズの頻度、長さが母語話者とどう異なるか、学習段階によりどう変化するかを検討した。その結果、学習段階にかかわらず、ポーズの位置、頻度、長さが母語話者とは異なることが観察された。さらに文構造で詳細に検討を行ったところ、母語話者は右枝分かれの境界でポーズの頻度が高く、左枝分かれの境界では頻度が低いことが判明したが、学習者には明確な差が見られなかった。学習段階による変化は個人差が大きく、母語話者のパターンに近づくものもあるが、変化が見られないものもあることが観察された。    本研究は調査・分析による問題点を提示にしているにとどまり、発話のわかりやすさにつながるポーズの取り方の具体的な指導法の提案までには至っていない。(文責:渡邉千佳子)

許 羅沙(2003)「中国人日本語学習者の日本語聴解能力(初級)について—言語テストデータ分析に基づいて—」『神戸女学院大学 論集』第50券,第二号,神戸女学院大学研究所,pp.29‐50

 本研究は中国人初級日本語学習者が聴解における問題はどこにあるかを明らかにする目的で、2000年6月に中国広東外語外貿大学1999年9月に入学した日本語専攻の大学一年生(113人)を対象に調査を行った。その結果、絵のない項目は絵のある項目より難しかった。しかも、学習者は日本語の「常体」とくだけた言い方のほうが苦手。感覚・感情語彙が苦手。連語または動詞との共起成分の復元能力と情報の選別能力が不足であることがわかった。(文責:劉永亮)


尹松 (2002) 「パターン学習は理解を促進させるか ―ラジオニュースの聴解の場合―」『日本語教育』112号,pp.35-44

 中国における日本語学習者は聴解に対してもっとも困難を感じていることが指摘される。その上に、中国では効果的聴解の指導法についての研究はまだ少ない。本稿では、中国で日本語を学ぶ大学生に対する効果的な指導法を開発するための基礎研究の一環として、ラジオニュースのパターン学習に焦点を当て、現段階の指導法と比較しながら、パターン学習の可能性を試みた。その結果、ニュースを構造的に聴くことができるようになり、ニュースの理解をより促進させる効果があった。パターン学習を授業に取り入れ、パターンを形成させ意識的な使用を促すことが、予測力を養成し、聴解力の向上につながるのではないかと考えられる。 (文責:魯菲)


舘岡洋子(2001) 「メタ認知を促す評論文読解の試み―文章構造への意識化と読解過程の共有化―」 『INTER-UNIVERSITY CENTER FOR JAPANESE LANGUAGE STUDIES ADMINISTERED BY STANFORD UNIVERSITY』紀要24,アメリカ・カナダ大学連合 日本研究センター pp.61-90

 2000年-2001年度アメリカ・カナダ大学連合日本研究センターのレギュラーコース「リーデイング(評論文読解)」クラス設定における目的と実践概要を報告するものである。学習者の実態から問題点と対策を論じ、導き出された対処法により実践を行った。第1問題点「文化や言語による文章構造の違い」への対策として「統合のストラテジー」を訓練す ること、第2問題点「正確な理解」への対策として、精読とデイスカッションを通して読解過程を共有化し、メタ認知を促すことを試みた。結果、評論文を取り上げたことは、文章構造を意識化し書き手の論理展開を追う訓練、筆者の意図を正確に把握する訓練として適切であった。また、「転じる構造」を意識化させることにおいて「統合のストラテジー」は、ある程度有用であるということが分かった。さらに、精読、デイスカッションにより、他者の意見や解釈を聞いて自己の読みを見直し、既有知識が変容していくことが分かった。
 しかし、どのような要素により、以上のような共同体の場を用いたメタ認知を高める活動を学習者が形成していくことができるのか検討を要するという課題が残った。 (文責:神村初美)


平尾得子(1999)「講義聴解能力に関する−考察−講義聴解の特徴と日本語学習者が抱える問題−」『大阪外国語大学日本語・日本文化』25号,pp.1-21

大学では授業の多くは講義形態をとっている。ゼミナールや講読と比べて、音声を用いて情報を与える教師側と情報を受け取りながら理解を進める学生側、長時間にわたって一方的な情報の移動が行われる。そして授業理解についての評価は筆記試験あるいはレポートの場合が多い。講義形態の授業が求められる聴解能力は会話聴解能力と異なると予想される。しかし、講義聴解はどのようなものかまだ十分に説明していなかったと指摘された。講義形態の授業では知覚や理解といった面に目が注がれ、実際に講義聴解がどう評価され、どう技能しているかということに対してあまり関心が向けられていなかった。本稿では評価対象となる答案作成を講義聴解の一連の活動と見なし、答案が書けるように聞くとはどういうことか、学習者はどのような困難を抱えているのか、そしてその困難を解決する方法は何かということを考察している。(文責:王 艶)


鮎沢孝子・楊立明・磯村一弘・西沼行博・小高京子(1998)「北京語母語話者による東京アクセントの知覚」『音声言語の韻律特徴に関する実験的研究』平成8年度研究報告書(科学研究費・新プロ)

 東京在住の北京語母語話者54名(以下在日北京語話者)と中国から来日の北京語母語話者の日本語教師19名(以下来日日本語教師)を対象に「東京語アクセントの聞き取りテスト」(以下聞き取りテストと称する)を実施した。その結果、北京語母語話者は平板・尾高型、最後の一拍でピッチの下降するアクセント型の正答率が高いこと、頭高型は成績群別の正答率は非常に大きいこと、疑問の文末上昇イントネーションがかかると語中のピッチ下降が聞き取れなくなることおよび最後から2拍目でのピッチ下降が最後の1拍での下降と聞き誤りやすいことがわかった。 母語北京語はトーンアクセントであり、一音節の中にピッチが変化する。そのため、中国の語調は文構成によって変化している。文中の「-2」型の例では、ほとんど「から」、「まで」のような2拍の副詞に前接単語があって、北京語話者にとっておそらく「単語」+「副詞」の形として捉えた。それで、北京語の語調では「副詞」のところに「調核」があるため、副詞つまり「-2」のところに強く発音する意識があるかもしれない。第四声だけではなく、文構成も北京語話者の聞き取りに影響されているではないかと思う。また、北京語では、4、5音節からなる単語は「成語」のほか、数が少ないため、ほとんどの4、5音節やそれ以上の長音節は2/2、2/3あるいは3/2のように分けて発音されるため、それも「-2」の原因の一つではないかと思う。(文責:彭韵) (文責:藤本かおる)


鈴木美加(1998)「初級後半の学習者は文章をどう読むか—アイカメラによる文章読解中の眼球運動の記録—」『東京外国語大学留学生日本語センター論集』24号,pp.65-81

学習者が読解中にどのような処理を行っているのかを考察するため、アイカメラを使用し、読解中の学習者の目の動きを記録、分析し、読解中の停留点の位置、逆行の有無とその位置、各文の読みの所要時間といった点に関するデータを得た。その結果、学習者の読解力の高低と読解スピード、注視に関しては有意な差は見られなかったが、読解力の高い学習者の方が戻り読みを多くしていることがわかった。 また、学習者へのインタビューから、読解力の高い学習者はまとまった意味のネットワークを作り出すことができるが、低い学習者は、処理に追われ、まとまった意味のネットワークを作り出すことが難しいことが推測されるなどの結果となった。(文責:藤本かおる)


鶴見 千津子 (1998) 「日本語の読解における音読の影響-韓国の母語話者の場合-」 『日本語教育』98号,pp.85~95

音読が学習者の読解にどのような影響を与えるのか、さらにそれは言語能力レベルによって異なるのかを韓国語母語話者を対象にした一連の実験を通し、読みの形態(黙読・音読)、言語能力レベルの違いといった観点から考察されている。文章の理解においては、音読より黙読の方が有効であり、内容の再生が容易であった。しかし、それはテキストのタイプによって異なり、どのテキストにおいても黙読が優位であるとは言えないということ、会話文から構成されるテキストの場合、音読が上級学習者にとっても有効であるという結果が二つのタイプのテキストを用いた学習者の再生プロトコルの比較実験の実証的データから得られた。日本語の読解研究において実証的研究が少ない現状の中、これらの研究の実績が日本語教育指導法の応用につながっていくことが今後期待される。(文責:閔 竣泓)


中窪高子(1997) 「日本語学習者の聞き取りにおける「修正」の役割-聴解教材開発のための実証的研究-」『日本語教育』95号、日本語教育学会、pp.13-24

 本稿は、英語母語話者の留学生を対象に、修正を加えた日本語が実際に学習者にとって聞き取り易いかどうか、学習者の日本語レベルと修正が聞き取りに与える影響との関係について調査・報告している。「母語タイプ」と「修正タイプ」のテクストを用い、聴解テストを行った結果、(1)修正を加えたテクストを聞いたグループの方が聴解テクストの平均点が高く、修正が学習者にとってテクストを聞き取り易くしている(2)学習者の日本語レベルが上がるにつれて修正が聞き取りに与える影響が小さくなることを示している。しかし、聴解テストにおいて、修正を加えることによってテクストが日本語学習者にとって聞き取り易くなることは当然予想されることであり、学習者のレベルが低ければ尚更そうであると推測される。またテクストに修正が加わることによって不自然な内容になりがちなので、これもまた自然性を生かした会話教育が提唱されている昨今の日本語教育において相反するものである。今後は必要最小限の修正を加えるだけで、自然な発話に近いテクストを聴解教材として与えるように工夫が必要であろう。(文責:崔文姫)

山本冨美子(1993)「上級聴解力を支える下位知識の分析-その階層化構造について-」『日本語教育』82号,pp.34-46

上級聴解を支えている下位知識のうち、音声、語彙、文法、構文、専門的背景知識の分析を通じて、文法知識と音声知識、語彙知識と文法知識深い関係があり、構文知識は聴解力の高まりに役立ち、和語系語彙の知識は漢語系語彙知識より聴解力を高めるのに役立つという結論を得た。
上級聴解力の習得を目標とする学習者の下位知識とその聴解力との関係について分析を試みて、上級聴解の下位知識は音声、文法、和語、専門的背景、漢語の知識の順に階層構造化されていると推論された。 (文責:蹇 敏<ケンビン>)

岡崎眸(1987)「第二言語習得の促進を目指す聴解指導-Comprehensibe inputの場合-」『日本語教育』64号, 日本語教育学会, pp.86-98.

第二言語習得研究におけるcomprehensible inputの重要性を確認した上で、この観点からの聴解指導の再考を試みている。このため、まずこれまでの第二言語習得論におけるcomprehensible input関連の先行研究や、聴解指導とcomprehensible inputの関係に関する先行研究について、概観、整理をし、comprehensible inputの拡大を目指す聴解指導の一例を提示して、これからの聴解指導に有効な方法論について発展的な示唆を得ようとしている。このまとめとして「(1)授業全体を通してcomprehensible inputを与えるための聴解を増やすこと(2)コミュニケーション活動を増やすこと(3)聴解専用の時間の聴解に実生活の聞きの特徴を大幅に取り入れること」の有効性を報告している。  授業実践例について検討されている点は貴重であるが、実際にどのようなことが必要になるのかといった今後の展望をより具体化、可視化するために、一定の尺度や基準(テストによる評価、統計、録音や文字化、フェイスシートとアンケート、など)を設けるとより実証的になるのではないか。 (文責:磯野英治)